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姿見のまえ 四つ折りのチラシ広げて
ひっつかんだ前髪
じゃきりじゃきり 小さなはさみで切る
落ちるこぼれて畳
ぺたぺた指を這わす


単色印刷の
トマトがきゅうりがさかなが
黒い汚れみたく ひっかぶっていくの
ぱらりぱらりとまた
細かな糸をかぶる


じーわじーわじーわ
まぶしくて あたし少しだけ目細めた


このまま全部切りたかった




姿見のなか なるべく見たくなかった
手櫛入れて前髪
じゃきりじゃきり なるべくぎざぎざにする
ほのかな風にながれて
ずずい苛立ち集める


モノクロ印刷の
トマトにきゅうりにさかなに
黒く汚すみたく またかぶせていくの
ぱらりぱらりとまた
細かな糸をかけた


じわりじわりじわり
まぶしくて あたし少しだけ泣きそうな顔した


そのまま全部泣きたかった


ごみ箱の上 安売りのチラシ丸めた
そのまま落とすしだいで
ためらうことはないよね
ねえ


何でもかんでも入った 真っ赤なごみ箱に
紫色のチラシ
できるだけらんぼうに詰めた
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ふたつぐらい 並んだらくだのこぶ
水だと思ったら 風に乗った砂を詰め込んでた
道理で重い筈だ ここらで撒いていこうか
かまやしないだろう これだけ広いんだ
砂嵐、びゅうと吹いて
ああ また こぶがふくらむ


どうせなら星の砂がいい と、らくだぼやく
捨ててきた金貨は 今頃子供が拾ってるかなあ?
果てもせず続く 冷たい砂漠の中
響くことのない 僕の足音


重たくなったら 捨ててしまって
ひとつかみのガラクタだけ 握ってこうか
どこまでも平たい 乾いた砂原の上
いつまでも続く 僕の足跡
振り向いたらもう 風に消えたけど


昼と夜刻んだ またひとつ刻んだ
また日は昇る また日が沈む
巡り 巡れど まだ砂の海
見渡せば三日月の色
水をおくれ 空にうたう


大切になったら もう手にあまるよ
しあわせとか 安穏なんて
ただ足首を引きとどまらせるだけ で
流浪あこがれ ひとつ背負って
持つもの、まだある
待つひと、まだいる?


昨日書いた夢が どこか落ちてないかな
金貨三枚あげる だから返しておくれ


広い広い、拾い拾い
どこへいこう ひとりきりで
喉がかわいたから 涙をのむんだよ
うそぶく声もかわいて
笑う声もない
ここに君なら ここが果てなら


オアシスとおい 月夜の沙漠
星空みあげ らくだ一鳴き
らくだひとなき

ささくれむいて落ち捨てた
駅のホームに落ち捨てた
ガムや油やなにがしか
まぎれて私が地に落ちた
駅のホームにわが落ちた


焼け立つ線路がなお遠い


みいんみんみん蝉が鳴く
みいんみんみんかげろうで
ゆがんだ目先で
夏を見る


指先赤く筋通る
行き過ぎたまま筋残る
むきすぎただけ痛くなる
ささくれだった心だけ


指先ぴりっと滲み出た
いらついたまま吸い上げた
じくりまた赤滲み出る
落ちた私は白いまま
細い皮だけ白いまま


線路脇には咲く雑草


みいんみんみん蝉が鳴く
みいんみんみんみじか夏
みいんみんみんじかに落つ


ざらりまた赤ぬぐいとる
不味い口また不味くなる
ぬめる分だけ不味くなる
ねとりいらだち水ほしい


みいんみんみん汗落ちる
ぽたりぽたりと音もなく
みいんみんみん汗じゃなく
みいんみんみんなく蝉が


むいた私のささくれは
黒い地面に落ちたはず
じゃらり靴底踏んでみた
どこにあるかもわからない


みいんみんみんみじか夏
私の線路が
なお遠い


電車はもうじきくるはずだ


すずめなんかになりたかった
人間でなんていたくなかった


空を伝わる黒線の
まうえにちょこんと丸まって
今朝も早よからちゅんちゅんと
ひかえめなうたをうたってる


すずめなんかになりたかった
人間でなんかいられなかった


すずめはちいさく強いから
ついばむだけで生きている
すずめはつぶらにお空見て
青色のなかにとけこんだ


すずめになんかなれなかった
人間なんかになってしまった


夏はかげろう飛び跳ねて
冬はふくれて寄せ合って
だってそんなふうに
僕もいきたかった


僕はすずめになりたがったのに
僕はすずめになれなかったんだ


すずめは知らずにかまいもしない
ちゃいろくかわいくそこにいる


すずめは飛べてしまう
ちちちとおいていく
すずめはそら高く
せめて遠くを見せて


僕はすずめになりたかったんだ
僕はすずめになりたかったんだ


すずめは今日も空にいる
青くうるわしの空にいる


僕はすずめになりたかった


でんしゃがびゅんびゅんすぎさっていく
あるいていかないぼくがのこってる

たのしげ親子がわらってるみち
ぼくはぺけぺけのにんげんです
ずっととおくへぼくを追い越す
ぼくはぺけぺけのにんげんです

きみとあるけばどこへかいけた
ぼくときみとでどこへかいけた
きみとあるけばどこへかいけた
こんなぼくでもどうにかいけた

たかだかちょっととおいだけだけど

でんしゃはびゅんびゅんとおくまでいく
あるいていかないぼくがのっている

ひざをかかえたい長椅子にのる
ちくちくとするとげがいう
さわぐこどもを蹴倒したいぞ
なきそうな声でとげがいう

たとえば花を手折りたくない
きっとあのひとよくわからない
たとえば虫をころしたくない
きっとあのひとわからずにふむ

たかだかちょっとそれだけのはなし

がたんごとんにまぎれる声で
ちいさくちいさなうたをうたおう
がたんごとんにまぎれる歌で
いまのここちをどうまぎらわそう

でんしゃがびゅんびゅんいえまでのみち
かえりたくないぼくがのっている

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